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バリバリ伝説2〜新たなる挑戦
第二章 その(1)

【中盤】

世界GPも、第6戦イタリアGPを終えてもはや後半を迎えた。

巨摩郡は、記憶消失という過去例がないGPライダーとしてのハンディを負いながらもここまでの成績総合第4位と、ホンダ陣営の中ではガードナーの第2位についで、まずまずの結果で進んでいた。
もちろんトップは今年もラルフ・アンダーソン。ポイントでもダントツ。郡にとってもつらい、大差がついていた。このままだと、残り7戦はひとつもノーポイントで終わることができない厳しいレース展開だった。ただ、気になるのが今年参戦したニューフェイス、アプリリアのマシンを操る、アンディ・ロッシィーニの第3位が大穴だった。250ccでは近年好調なアプリリアだったが、昨年からの本格的なGP500cc参戦、そして今年の好調ぶりはホンダ、ヤマハ陣営には驚きであった。またどのようなマシンなのか、各陣営情報が摘めないが、現時点でのレース順位結果が、その性能、チーム力を物語っていた。

「島崎さん、あのイタリアのマシン速いですね。」
「いまに、ホンダ、ヤマハっていってらんねぇ時代がくるぜきっと。」

次なるレース、フランスにむけて、移動の準備に負われる郡のチームであった。
その頃郡と歩惟は、次のGPまでの間、郡の脳波の精密検査のため日本に一時帰国していた。
郡のレース結果はまずまずなのだが、肝心の記憶がとぎれとぎれのまま、妙に焦る郡であった。ただ、歩惟については「自分にとって大切な人」という意識はあり、この半年間他人のようでも、一緒に暮らせば愛情というものが芽生え始めていた。

「ただいま。」
「歩惟ちゃんじゃないか!ひさしぶりだね。どうだい郡のやつは。」
比呂のショップに顔をだしてみたら、市川さんがいた。市川さんは、今では教育委員会の方に出向していて、結構自由が利く時間が出来て、暇をみつけてはこのショップに足を運んでいた。
「あれ、郡のやつは?」
比呂が客のバイクのオイル交換をしながら遠くからさけんだ。
「それがねぇ。病院から帰るとすぐにつなぎに着替えてバイクで出ちゃった。」
「どうなの、郡の様子は。」
「レースのことは、もうすっかり想い出したみたい。島崎さんや太田くんのことも少しだけど思いだしてきているみたいだし‥。あっ、梅井さんのことはわすれたままにしておくみたいだよ(笑)」
「すっかり、大丈夫そうじゃないか。」
「でもねぇ、市川さん。なにか、とぎれとぎれで思いだしているみたいで、自分でもこんがらがって悩んでいるみたい。郡ってあれで一人で悩むたちだから‥。」
そういって、椅子に座ろうとしたときに歩惟のミニスカートからすらりと伸びた足がはだけた。すっかり綺麗になった歩惟を見て、年甲斐もなく市川さんが珈琲を飲みながらつぶやいた。
「でも‥、歩惟ちゃんもすっかり大人の女性だね。」
「えっ?」
「いやぁ、たまにしか逢ってないから本当にビックリするよ。今度、郡にないしょで飲みにでもいこうか?」
「やだぁ!市川さんったら!」



【蘇る二人】

その頃、郡はいつもの奥多摩の峠の駐車場スペースにいた。
「おい。あれレーサーの巨摩郡じゃないか。」
「俺、あこがれてんだよな。世界でトップクラスのGPレーサーだぜ。でも、なんで日本にいるんだ。‥ありゃ偽物だよ。ヘルメットだってショップで売っているのとおなじじゃんか。」
「でも、いまどきCBだぜ。俺のVFRの方が速いんじゃないか?」
「おめぇ、速ぇ〜からな。」

郡は待っていた。
日本を出る前、ここで出会った一台のKATANAを。
「ちくしょう!俺の記憶はあのKATANAが握っているんだ!」
郡が、タンクに乗せていたヘルメットを地面におこうとしたその時、下の方から大排気量バイクの集合サウンドが聞こえてきた。
「来たっ!」
駐車場前をゆっくりと通り過ぎる一台のKATANA。そして、郡の方を向いたまま登っていった。郡は一瞬目を疑った。
「あのヘルメットっ!?」
郡は、おきかけたヘルメットを急いでかむり、CBに火を入れる。
ブォォォンッ!
「ヒデヨシだ!まちがいねぇ!」
アクセルターンで車体を回し、いきおいよく駐車場から飛び出た!

「おぃ。おっかけるぞ!」
まだ高校生くらいの先ほどの二人の2台400CCが、郡のCBを追いかける。
二人のバイクは、今流行のレーサレプリカ、マフラーを交換しているVFRと、FZRだ。
「おぃ。あの調子こいているやつをビビラしてやろうぜ。」

わざとゆっくり走っているのか、郡のCBはすぐにKATANAに追いついた。
郡のCBがパッシングする。
KATANAは、それがわかっているかのごとく、パッシングが合図のように大きなウィリーをしてフル加速した。

グォォォン!コォォーッン!

「今日こそ、追いついてやる!」
郡がKATANAのラインを丁寧に見ながら、右、左と小刻みにつづくコーナーを軽やかに交わしていた。
「おい。あのCB速えーぞ!よく、あれだけ重い750を、なんで軽く切り返せるんだ?」
「でもタイヤなんか、ずりずり滑ってるぜ。俺のバトラックスはまだグリップしてるけど、CBいいタイヤはいてねぇ〜のかな。」
KATANAの走りはあいかわらず無駄が無く、そして速い。
それに対して、郡も今年のGPをかなり消化しているのか、春よりは速くなってきている。
KATANAがバンクしすぎて、クランクケースを擦る。火花が後ろのCBまで飛んでくる。
「なんで俺のVFRがついていけねぇだ!コーナのたび遠くに行くぞ!?
所詮750は図体でかいだけで、峠では400とかが速いはずじゃなかったのか!」
「CBのやつ、フロントも滑ってるぞ!それでもなぜ転けないんだ!あいつ何者だ。俺達とコーナリングがまるで違うっ!」
峠の頂上近くまで来た。道路左わきにすこしパーキングエリアが見えた。KATANAはウィンカーを上げ、そのまま減速せずアクセルターンで切り返した。タイヤから白煙がでる。そして、今登ってきた道を今度は下りで走っていった。
郡のCBも着いた。同じようにアクセルターン、フロントが大きく上がってフル加速。KATANAのいった後を、急いで追った。
「げっ、ウィリー!CBでウィリーかよ。」
まずはVFRが来た。小さな旋回をしようとして、砂をふんでフロントが滑って転倒。カウルが割れ、あたり一面にウィンカーガラスの破片が飛び散った。
「だせぇ。」
FZRがきた。減速して、ゆっくりとまわって郡たちを追った。
「なんで高性能のFZRでCBに追いつけないんだっ!」
郡の方は下りでKATANAに離されてきていた。
「あのカタナ、下りの方が速い。それも桁はずれに‥。しかし、ラインどりも完璧だ。ブレーキのタイミングもいい。」
郡のCBも離れはしないモノ、付いていくのがやっとだ。
「んっ?そうか!知らず知らずにあのカタナの走りに合わせていたんだ!俺のライディングとは違うんだ!俺は俺の走りをすれば良いんだ!」
郡のCBが急に元気が出てきた。カタナは安定した走りで、短いコーナが重なるポイントを切り返す。郡のCBはかなりオーバースピードだ。リアはホイルが空転しっぱなし。そのたびに白煙がリアから上がる。

「くそったれタイヤーッ!グリップしろーっしねーとカレーライスにして食っちまうぜっ!」

バリバリ伝説2〜新たなる挑戦
第二章 その(2)へつづく


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