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バリバリ伝説2〜新たなる挑戦
第一章 その(2)

あの日以来、郡はあのカタナが頭から離れない。
「一体、この感情はなんなんだ‥。」

入院していたとはいえ、外傷は意外に大したことが無く、ただ転倒時後ろからおそってきたバイクのエンジンに頭部を打たれたことが記憶喪失になった原因らしい。
入院直後、HRCのお偉いさん方がやってきて、来期のことで担当医と相談していた。
「どうですか、巨摩は。来シーズンは走れますか?」
「不思議だが、体の方はなんともないでしょう。後は本人次第ですね。」
大事をとってその後数ヶ月間入院。そして退院。
退院直後の郡を待っていたのは、鈴鹿での新型NSRのテスト走行のスケジュールだった。
昨年好調だったホンダ陣営だが、新しいシーズンが来ればまた一からの勢力争いが始まる。郡は、昨年も総合2位で終わるという名実ともにトップワークスレーサなのだ。
「逆に、大事をとって休暇を取るより、今まで本人がいたレースの世界でリハビリをさせたらどうでしょうか?」担当医から言われたとおりか、HRCの梅井は郡のエントリーをはずしてはいなかった。
「おい、巨摩。久々のNSRだから軽く流せよ。新型をぶっこわしたら承知しねーぞ!」
郡のチーフメカニックでもある太田が郡のNSRを持ってきた。
太田「昨年の鈴鹿でのNSRとミッションのギア比は同じだ。まだ最終の仕上がりは出来てないが、パワーは格段上だ。下からもかなり付いてくる。まずは体を慣らすつもりで。」
郡「ありがとう。」
パァァァァアン!パァァァァアン!
周りの顔は見覚えがあるようだが、まだ郡にはわからない。ただ、NSRにまたがった瞬間郡の右手は勝手に動いた。

パァーアァン!
小さなウィリーをしながら、ものすごい勢いで郡のNSRはピットを出た。
「バカ野郎!あいつは手加減を知らないのか!最初からフルスロットルのヤツがいるか!」梅井の怒鳴り声がピットに響いた。 しかし、誰もがその郡の走りにひとまず安心していた。
梅井「やれやれ。次の周からタイムを計ってくれ。」
スタンドにはもちろん、歩惟や、比呂、みい、市川さんの姿があった。

歩惟「がんばってグン!」

一人孤独に新型NSRのテストを行う郡。
2サイクルのエンジン音が鈴鹿のサーキットに響く。
久々の郡の勇姿だ。

市川「おや?もう一台走っているぞ。」
郡が走ってまもなく、最終コーナから一台のマシンが走ってきた。
それは、紛れもなくヤマハのワークスマシンだった。
みい「まさか?なぜ?」
ラッキーストライクのカラーリング。ヤマハYZR。ゼッケン1。
昨年の総合チャンピオン、ラルフ・アンダーソンだった!
みい「今日はHRCの貸し切りのハズじゃなかったの?」
比呂「どうやら郡の復活を願っているのが、日本以外にもいたみたいだね。」
実は、今日のテスト走行の話を聞きつけたチームラッキーストライクのロバーツが、ラルフに話したところ、郡の病状を聞きつけ、彼本人の願いもあって非公式に来日。「一緒に走らせてくれ。」と、ヤマハの協力のもと、昨年の最終戦のウィンニングマシンを運んできてくれたのだ。
最初、新型のNSRのテストもかねているので梅井は反対したのだが、多少の仕様変更程度のNSRは特に真新しい外観もなく、ロバーツから直々にお願いもあって走らせてもらっていた。

「GUN BOY!早く、戻ってこい!」
ラルフのYZRがピットに入る。
そして、最終コーナから郡のNSRが現れた!
郡のタイムアタックが始まる。
「ん?」

時折アグレッシブなコーナリングを試みたかと思えば、ゆっくりとサスを沈めてサスの感触を確かめたり、マシンのコントロールを覚えることに専念していた。
そして、後ろからラルフのYZRが猛スピードで現れた。
いきなり背後に迫ると、最終コーナーまでピッタリと郡のNSRに突き、一緒に走っていたかと思うと、いきなり抜いてきた!

「GUN BOY! Meだ!覚えているか!」

郡の転倒により、2年連続500CCチャンピオンはラルフだった。
「あの転倒がなかったら、MeはYouに負けていた。今年こそ本当の勝負をつけてやる!優勝がアクシデントによるラッキーなものだと思われたくないからな。」
テスト走行のハズが、いきなり2台の壮絶なバトルに変わった。
「あの後ろ姿。見覚えがある。YAMAHA?」
郡のドリフトも派手になり、2台の2サイクルのエキゾースが響きわたる。
自分がなぜここを走っているかもわからないまま、両手両足が勝手に動く。
その条件反射的な動きは、記憶喪失であるはずの郡すらわからないうちに動くのだ。

みい「なんで、ここにラルフが走っているのよ!」
市川「もしかしたら、郡のヤツこれで記憶が戻るかもしれないな‥。」

郡のペースがあがる。ラルフも手加減はしない。
途中までラルフが先頭を走っていたが、最終コーナーを過ぎると郡のNSRが前に。しかし第一コーナーではラルフのYZRが前に。

「この野郎。速いぜ!一体誰なんだ!」

しばらく壮絶なバトルが続いた。
太田「よしっ!」
「何秒だ?」梅井が太田のそばにやってきた。
太田「13秒台です。」
梅井「バカ野郎!あいつは帰ってきたぜ!」
ピットから声援がこぼれた。郡のベストタイムには及ばないもの、まずは復帰初めてのタイムアタックのわりにはかなり良いタイムだった。
郡は戻ってきた!あとは、その失われた記憶のみ。
郡はもう一周ほどバトルがらみのタイムアタックを試みると、あとは新しいサスとか、コーナーの感触とかもっぱらマシンの挙動を試しながらコースを走っていた。5周ほど廻った後、ピットからピットインの指示が出て、2台はそのままピットに入った。
パァラァァン、パァラァァン、パァラァァン。
郡がヘルメットを脱いだ。
ラルフが近寄ってきた。
「Hey!GUN BOY!覚えているか!」
「いや、どこの奴だが検討もつかねぇが、随分速い奴だ。」
「!‥‥。」

太田「タイムも悪くないし、大丈夫ですね。」
梅井が郡のそばに寄ってきた。
「バカ野郎!誰がGPの予選を走れって言った!まったくてめぇーは加減ってものがわかんねーんだよ!」
激怒をとばしてはいたが、反面うれしそうな笑みを浮かべていた。

(Youは本当に、Meのことを忘れてしまったのか。確かに以前と同じ速さだが、いつもの走りでは無かった。早く戻ってこい!GUN BOY‥)

「マシンは良い仕上がりだ。もう少しサスが決まればいい。後は、ミッションはパワーがある分、もう少しハイギアでもいいんのでは。」
「それだけわかっていれば上等だ。今日はこのぐらいで後はデータを集計してまた来週だ。」



「グンは大丈夫でしょうか?」

ピットから出てくる梅井のもとに歩惟が近寄ってきた。
実は、梅井は郡と歩惟の仲人でもあるのだ。昨年、シーズン入り前に大急ぎで結婚することになった二人は、入籍だけと考えていたが、
「こういったことは、両親も楽しみにしていることだし、何よりもファンのためにも。」
などと勝手に大がかりな披露宴を企画し、ガードナーやローソン、そして宿敵ラルフの祝辞が紹介される中、HRCの皆さんやロン・ハスラムに囲まれて、もちろん比呂やみい、市川さん、島崎さんなども出席し盛大な式が行われたのであった。
「走りは問題ない。あとは何かのきっかけで記憶が戻ってくればいいのだが‥。」


バリバリ伝説2〜新たなる挑戦
第一章(3)へつづく


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